舞元啓介の涙を誰が笑えるだろうか
舞元啓介はスポーツの実況をするためにVTuberになったという異色の人物でありそれを裏付けるだけのスポーツへの知識と熱意のある人だった。
ただしその道は過酷を極める。当然映像を使うことはできない。スポーツ中継自体が下火でありCSや配信サービスへの加入など必要条件が多くなっていた。
そして同時視聴自体がかなり人を選ぶコンテンツである。本映像と配信を同時に見られる視聴環境がなければ参加できないしあったとしても音声が被る。アーカイブ視聴も見込めない。
それでもその人とその時間を共有したいと思って見るものだ。
デビューしたのは2018年8月。ちょうどサッカーワールドカップも終わり高校野球も終盤に向かう非常に間の悪い時期だったことも災いした。
初期の視聴者数は100人程度だったと思う。彼は引退も考えたと後に語っていた。
彼は方針を変えた。スポーツ実況よりもいわゆる普通のVTuber的なゲームやラジオ風の配信が増えた。
初期から方針を変えることは珍しい世界ではないし配信自体も面白いものが多くファンはどんどん増えていった。
しかし彼自身はスポーツ系の自分を期待してくれている人達に申し訳なさを感じていたようだ。
あまり関係ない配信でもスポーツのことに聞かれれば語ってくれるしTwitterでスポーツ関連の呟きも結構あったのだが…
嫌だからやらないわけでなく好きなのにできないという状況は心に来るものがあることは想像に難くない。
ついに来たビッグイベントであるラグビーワールドカップで彼は忙しい合間を縫って日本代表の応援枠を取る。現地にも足を運んだようだ。
引き分け以上で日本史上初の決勝トーナメント進出となるスコットランド戦。歴史的快挙に湧いた瞬間、同時視聴枠で応援していた舞元啓介は8000人を越える視聴者と共に喜び人目も憚らず泣いた。
時間にして3分間ほど何も言葉を発せず鼻をすする音だけが流れた。
沈黙を破ったのち絞り出すように出した「こういう配信がしたかった」という言葉が今でも離れない。